TOP > コラム一覧 > 歯科衛生士の離職率はなぜ高い?離職率が高い理由や、定着率を改善するための対策方法を解説

2024.09.07

  • コラム

歯科衛生士の離職率はなぜ高い?離職率が高い理由や、定着率を改善するための対策方法を解説

歯科衛生士 離職率

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

歯科医院になくてはならない存在となっているのが歯科衛生士です。もはや歯科衛生士なしでは歯科医院は運営は回りません。しかし、そんな歯科衛生士の離職率は高く、定着率を高めることが歯科医院の課題になりつつあります。

本記事では歯科衛生士の離職率に着目し、歯科衛生士の離職率の現状や離職率が高い理由などをまとめています。

歯科衛生士の離職率はどれくらいか?

歯科衛生士 離職率

まずは現状の歯科衛生士の離職率について解説します。

歯科衛生士の76.4%が離職を経験している

日本歯科衛生士会では5年に1回、「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」を作成しています。最も新しい調査が令和元年の調査で、その中で「勤務先の変更経験」の設問があり、勤務先を1回でも変えたことがある歯科衛生士は76.4%でした。

回数では1回だけ変わった人が21.4%、4回以上変わった人が19.6%と回数はさまざまですが、何かしらの理由で離職した経験を持つ歯科衛生士が多いことは明らかです。

参照:日本歯科衛生士会

6割以上の歯科衛生士が転職を検討している

歯科衛生士 離職率

「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」では、現時点もしくは過去に転職を検討しているかを尋ねています。すると、転勤を考えていないと答えた人は全体の35.3%で、6割以上の歯科衛生士は転職を検討していると答えた形です。

そのうち、転職後も歯科衛生士となることを前提に検討していた人が31%と高く、歯科衛生士以外の仕事に転職をしようと検討した人を加えると5割近くに及んでいます。現時点で検討している歯科衛生士は割合的に少なく、何かしらの不満があって転職を検討した経験を持つ人が多いことがうかがえます。

若い歯科衛生士ほど転職を考えている

年齢別で転職の検討の有無について調べると、転職を考えたことがないと答えた割合は年齢を重ねていく中で増えていき60代以上は半数を超えていました。一方、20代後半では転職を考えたことはないと答えた割合が22.2%しかないほか、現在考えていると答えた割合が21.2%と高い結果が出ています。

言い換えれば、若い歯科衛生士ほど転職を考えており、いかに若い歯科衛生士に辞めないでもらうかが重要であることが言えるでしょう。

歯科衛生士の離職率が高い理由

歯科衛生士 離職率

本項目では歯科衛生士の離職率が高い理由についてまとめました。

ライフイベントがきっかけとなりやすい

「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」によると、勤務先変更の理由において、最も多かった理由は結婚でした。また出産・育児も同じくらいに高く、ライフイベントがきっかけとなりやすいことが言えます。

ちなみに、常勤・非常勤別でも出ており、非常勤で働く歯科衛生士が離職する割合で突出して多いのが結婚や出産育児を理由にしたものでした。逆に常勤の歯科衛生士は結婚や出産などで辞めるケースは比較的少なめというデータもあります。

常勤の歯科衛生士が退職を決断するケース

歯科衛生士 離職率

常勤の歯科衛生士が退職を決断するケースで最も多かったのが「経営者との人間関係」でした。その次が給与・待遇、仕事内容と続いています。

一方、転職を考えるようになったきっかけとして、給与・待遇がきっかけとなったケースが最も多い結果も出ており、複数の要因が退職につながったことが言えるでしょう。

卒業直後の歯科衛生士が不安に感じる部分

歯科衛生士 離職率

次に、卒業直後の歯科衛生士がどのような点に不安を感じるのかをまとめました。

スキル・知識不足と人間関係

厚生労働省の「歯科医療従事者の働き方と今後の需給等に関する調査研究」において、卒業してすぐ歯科衛生士として就職する学生を対象に、就職に対する不安を質問しています。回答した学生の半数以上が「自分の技術・知識不足」を不安点として挙げています。

参照:厚生労働省

一方で、スキル・知識の不足や人間関係以外で不安に感じる割合はかなり少なく、3番目の勤務条件で2.9%しかありませんでした。つまり、卒業直後の歯科衛生士のほとんどはスキル・知識不足もしくは人間関係に不安を感じていることがわかります。

就職先を決めるのに重視したい項目

歯科衛生士 離職率

厚生労働省の「歯科医療従事者の働き方と今後の需給等に関する調査研究」では、卒業してすぐに歯科衛生士として働く人を対象に、就職先を決める際に重要と考えた事項を質問しています。そのうち、職場の人間関係を第一に考えていた人が41.8%と多く、次に給与、勤務時間と続きました。

この質問は3番目まで答えてもらうようになっており、職場の人間関係が1~3位いずれかに入っていた割合は71.2%と7割以上の人が重要視していることが言えます。しかし、給与は72.5%と職場の人間関係以上に重視されていることがわかります。

歯科衛生士の離職率を下げるための対策

歯科衛生士 離職率

本項目では、歯科衛生士の離職率を下げるための対策をまとめました。

定期的にミーティングを行う

歯科衛生士とのコミュニケーションが離職率に大きな影響を与えることは、各種データからも明らかです。コミュニケーションを深めていくためにも、定期的にミーティングを行っていくことが求められます。

ミーティングを行うことで、歯科医院が目指すべき方向性がはっきりと示され、同じベクトルに向かって頑張っていけるほか、歯科衛生士が何をするべきかが明確になります。仕事内容が明確になれば、若い歯科衛生士も仕事に取り組みやすくなるでしょう。歯科衛生士が仕事上の不安点を抱えている場合、定期的にミーティングを行うことで解消を図ることができます。

歯科衛生士の研修をマニュアル化する

歯科衛生士 離職率

卒業直後の歯科衛生士は自分のスキル不足などに不安を抱いています。この不安を取り除くためには徹底した研修が欠かせません。しかし、多くの歯科医院は3か月ないし半年しか研修期間を設けていない状況です。そこでおすすめなのが研修のマニュアル化です。

研修をマニュアル化することで、誰に対しても同じような指導が行えるほか、歯科衛生士が自ら学びやすい環境になりやすく、自発的な成長が見込めます。何をすればいいかが分かりやすい分、業務に取り組みやすいのもマニュアル化の魅力です。

歯科衛生士の頑張りが給与に反映されやすい仕組みにする

日本歯科衛生士会認定の資格は多く存在し、取得を検討しているもしくは取得した歯科衛生士は一定数存在します。そのうち、給与に反映されたケースは全体の3分の2で、月給平均にすると9,822円増えた形です。

資格手当などを通じて歯科衛生士の頑張りが給与に反映される形にすることで、歯科衛生士のモチベーションアップにつながります。逆に歯科衛生士がどれだけ頑張っても給与に反映されなければ、モチベーションは下がってしまうでしょう。

歯科衛生士が歯科医院で働く際に求めるポイント

歯科衛生士 離職率

本項目では、歯科衛生士が歯科医院で働く際に求めるポイントをまとめました。

歯科医院のスタッフ内の人間関係

卒業直後の歯科衛生士は人間関係に不安を抱いており、怖い先輩がいないか、雰囲気が悪くないかなどを気にする人が少なくありません。特に歯科医院の院長の人柄を就職活動の際に重視した歯科衛生士も多く、院長の人柄が大きな影響を与えていることは明らかです。

院長の人柄がスタッフ同士の人間関係に影響を与える可能性があるため、定着率が低い場合には院長に何かしらの問題があると考えることが大切です。

研修制度

卒業直後の歯科衛生士は自らのスキル不足や知識不足を不安視しているため、これらを補ってくれる制度が求められます。そこで必要となるのが研修制度です。研修制度が行き届いていれば、安心して歯科衛生士の仕事に取り組めるでしょう。

丁寧に研修を行っていけば、入って間もない段階で歯科衛生士が辞めてしまう事態も避けられます。歯科衛生士の仕事は年齢を重ねてキャリアを積んでいけば次第に自信がつき、歯科衛生士の仕事を頑張っていこうと思えるようになるのです。

歯科衛生士の離職率は歯科医院の取り組みで食い止められる

歯科衛生士 離職率

歯科衛生士の離職率の高さに関して、歯科衛生士が不安に感じる点を含め、高い原因がはっきりとしています。ゆえに、歯科衛生士の離職率が高い状況は、歯科医院の取り組みがまだまだ不十分である可能性が高いと言えるでしょう。

裏を返せば、歯科医院が真剣に取り組んでいくことで歯科衛生士の離職率を下げることは可能です。給与面の改善が仮に難しくても、コミュニケーションを徹底することや研修制度を充実させること、そして、結婚や出産、育児に対して柔軟な対応を行うことをしていけば、離職を食い止めやすくなります。

結局、なぜ歯科衛生士が定着しないのかを知ろうとしないために、離職率が高い状態でキープされると言えるでしょう。離職率を下げるためには歯科医院が歯科衛生士とヒアリングを重ねていくことが求められます。

まとめ

歯科衛生士の多くは、少なくとも1回は離職を考えており、過半数以上の歯科衛生士は離職を経験しています。離職の原因もはっきりし、常勤・非常勤で傾向も異なることが調査からも言えることです。

これだけ多くのデータがある以上、いかに離職率を下げていくか、定着率を高めていくかは歯科医院の努力次第となります。真剣に歯科衛生士の定着を目指すのか、そのためにできることとはどんなことかを真剣に考える時が来ています。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者