日本の医療現場では医療DXが進行しており、マイナ保険証を筆頭に、どの医療現場を受診しても同じような治療を受けられるようにするシステムが構築されつつあります。電子カルテは医療DXの中の1つです。一方で歯科医院では電子カルテによるペーパレスの普及が進んでいないと言われています。
本記事では、電子カルテが歯科医院で普及しない理由を中心に、電子カルテを導入するメリット・デメリット、実際に導入する際の選定ポイントなどをまとめました。
目次
電子カルテとはどういうものか
そもそも電子カルテとはどういうものなのか、電子カルテに関する基本的な情報を解説します。
電子カルテの概要
今までのカルテは紙に記載されていましたが、電子カルテは電子情報として記録し、管理します。厚生労働省が定める電子カルテの要件は、「真正性」・「見読性」・「保存性」の3つです。
真正性は電子カルテの改ざんなどを防ぐ対策を施し、作成に関する責任の所在がしっかりとしていることを示します。また見読性は、どんな状態でもすぐに電子カルテを見て読めるようにすることを示し、保存性は、一定の期間内にいつでもデータの復元・保存が行える対策を行っていることを表します。
歯科医院で電子カルテを導入するメリット
本項目では、歯科医院において電子カルテを導入するメリットについて解説します。
業務効率化が進む
歯科医院では患者に渡す文書がいくつもあり、カルテを見た上で書類を作っていく必要があります。電子カルテだと、フォーマットさえ用意しておけばフォーマットに当てはめる形で作成できるため、患者を待たせずに書類を作れるのです。
また、会計までの時間も電子カルテがあれば削減できます。電子カルテはレセコンと連携しているため、電子カルテの情報がそのままレセコンにつながり、診療報酬の中身をすぐに確定できるので、会計まで時間がかかりません。紙に記録していくよりも簡単に記載しやすく、業務効率化につながりやすいのです。
間違いを減らせる
紙のカルテの場合、書いた人によって字の特徴が異なるため、カルテを見た人が間違った判断をしてしまう可能性があります。電子カルテは字の特徴がないので、誰でも書かれた内容を正しく読み解きやすくなるのです。
すると、見間違い・読み間違いを減らせるため、予期せぬ事故・トラブルも減ります。安全な診療を続けていくためにも電子カルテは欠かせません。
カルテ保管場所のスペースをとらずに済む
カルテには保存義務期間が存在し、歯科医院の場合は5年間の保存義務期間があります。この間、歯科医院はカルテを保存し続けないといけないため、紙のカルテであれば患者の数が多ければ多いほど、広いスペースを確保する必要が出てきます。
ところが、電子カルテは原則ペーパーレスなので、広いスペースを確保しなくても問題ありません。今まで確保してきたスペースを別のことに活用していけるので、利便性や快適性の向上にも活用できます。
歯科医院で電子カルテを導入するデメリット
メリットが多いとされる電子カルテですが、デメリットもあります。本項目では、歯科医院で電子カルテを導入するデメリットをまとめました。
コストがかかる
電子カルテを導入するには、電子カルテ専用のサーバーやソフトウェア、パソコンなど必要なものが多く、初期投資だけで数百万単位のお金がかかります。定期的なシステムの更新で、初期投資と同程度のコストがかかるため、コスト面で二の足を踏む歯科医院が少なくありません。
電子カルテを導入するメリットと導入で生じるコストを天秤にかけてみて、導入すべきかどうかの判断を行うことになるでしょう。
操作に慣れるのに時間がかかる
電子カルテを導入すると、多くの操作を歯科医師が行います。導入時には電子カルテの操作に手間どることが考えられ、歯科医師としての仕事が忙しい中で操作に慣れていかなければならないのも、電子カルテが煩わしいと感じる要素です。
導入する前に操作方法をしっかりと覚えていくことが大切であり、複数人で使う場合には研修を徹底するなどスムーズに使えるようにしておくことが求められます。
個人情報の扱いがシビアになる
紙のカルテの場合、誤って廃棄したり、外部に持ち出されたりしない限りはそう簡単には流出しません。しかし、電子カルテを導入すると、外部からのハッキングで漏洩する可能性があります。電子カルテに対するセキュリティ対策が欠かせません。
また操作ミスや設定ミスなどのヒューマンエラーで流出する可能性も十分に考えられます。ミスを防ぐための対策を色々と打ち出す必要があるでしょう。
歯科医院で電子カルテが普及しない理由
電子カルテ導入のメリット・デメリットがそれぞれありますが、基本的には導入のメリットの方が大きいと言えます。にもかかわらず、歯科医院では電子カルテがあまり普及していません。本項目では、歯科医院において電子カルテが普及しない理由はなにかをまとめました。
紙のカルテの方が扱いやすい
電子カルテは確かに便利であるものの、紙のカルテの方が扱いやすいと感じる歯科医師は少なくありません。長らく紙のカルテを使ってきて、自分なりのアレンジをしてきた歯科医師も多い中、急に電子カルテに切り替えるのは面倒と感じるケースもあります。
また電子カルテに切り替えることで、入力がメインになってしまって患者とのコミュニケーションが疎かになるのではないかといった懸念点も見られます。紙のカルテで事足りている以上、わざわざ切り替える必要がないのではないかと思う歯科医師は少なくありません。
電子カルテを扱いきれない
歯科医師の多くは50代60代とデジタル機器を苦手としがちな世代に該当します。デジタル機器を使いこなせないため、電子カルテを導入したら慣れるのに時間がかかってしまうのではないかと不安に感じる方がいても不思議ではありません。
現状では電子カルテが義務化されておらず、紙のカルテでも問題はない状況です。義務化がされない限りは紙のカルテを使い続けるというケースも考えられます。
費用対効果が見合わないという判断
電子カルテを導入しても、電子カルテそのものがお金を生み出すわけではないため、どこまで費用対効果があるのか、可視化されにくい部分があります。業務効率化によるメリットがどれだけのものなのかが見えにくいために、導入に踏み切れないケースもあるでしょう。
一方で、令和6年度の診療報酬改定では「医療DXの推進」が掲げられており、電子カルテや電子処方箋など医療DXに向けて力を入れる医療機関に対し、「医療DX推進体制整備加算」として診療報酬が加算される仕組みが新設されました。
電子カルテを導入することのメリットが金銭的な部分で出始めており、費用対効果の部分は今後さらなる検討の余地がみられるかもしれません。
歯科医院における電子カルテの導入方法
歯科医院で電子カルテを導入するためには、電子カルテの3要件である真正性・見読性・保存性を満たしたシステムの導入が欠かせません。近年主流となっているものは、電子カルテとレセプトが連動しているもので、業務効率化が図れる製品が中心です。
既にレセコンを導入する歯科医院の場合は、既存のレセコンと新たに導入する電子カルテが連動できるかどうかも注目すべき点となります。
実際に導入する際には、複数の会社で提供しているシステムを比較検討します。クラウドに対応しているかどうかや、歯科訪問診療でも活用できるかどうかなど、性能や使い勝手などさまざまな要素を比較しながら、最終的に決める流れです。
歯科医院で導入する電子カルテの選定ポイント
電子カルテを導入する際、どの点に着目して選ぶべきか、選定ポイントをまとめました。
クラウドでのバックアップができるかどうか
近年はクラウドタイプの電子カルテが増えています。クラウドタイプの場合、クラウド上にデータが保存されるようになるので、自然災害が生じてパソコンなどが壊れても、データはクラウドにあるため、データの復旧がしやすくなります。
また訪問診療においても、訪問先で電子カルテを記載すれば、すぐに反映されるため、とても便利です。クラウドタイプは初期費用を安く抑えられるのも魅力的な要素となっています。
業者のサポートの有無
電子カルテを使いこなせるかわからないと不安になる歯科医師にとって、業者からのサポートはかなり安心できる要素です。特に導入して間もない時期は、操作方法を含めてわからないことも色々と出てくるため、困った時にサポートがあるとすぐに解決できます。
問い合わせに対するレスポンスがどれくらい速いのかも大事な要素となり、サポート体制が万全なのかどうかもチェックすべき点です。
まとめ
電子カルテがあることで、業務効率化につながるだけでなく、患者にとってもプラスの面があるため、歯科医院だけでなく全国の医療機関で導入されていくのがあるべき姿と言えます。現状はその過渡期にあるため、紙のカルテと電子カルテが共存している状況ですが、今後は電子カルテに置き換わっていくことでしょう。
電子カルテに置き換わっていく中で、いち早く電子カルテを導入する際には、費用面や使い勝手の良さ、サポート体制の有無などに着目して選んでいくことをおすすめします。