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2024.09.07

  • コラム

歯科衛生士が思う「嫌な患者」(モンスターペイシェント)とは?特徴や対策・対処方法の理想と現実とは

歯科衛生士 嫌な患者

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

近年はカスタマーハラスメント、通称カスハラが問題になるなど、客側の態度が問題視されています。歯科医院における客は患者になりますが、患者が過度なクレームをつける「モンスターペイシェント」の問題が存在し、嫌な患者が全国各地に存在します。そんな患者と触れる機会が多いのが歯科衛生士です。

本記事では歯科衛生士が思う嫌な患者の特徴を中心に、対策や対処法、嫌な患者の割合などをまとめました。

歯科医院への満足度から見る嫌な患者の割合

歯科衛生士 嫌な患者

本項目では、歯科医院への満足度でチェックする嫌な患者の割合について解説します。

不満足と感じている患者は数%程度

2020年に公益社団法人日本歯科医師会では、10,000人を対象とした調査を行い、定期健診の意識などを調べました。その中で、「歯科医・歯科医院の治療に対する満足度」を聞いたところ、8割近い人が満足と答えています。

また2割近い人はどちらともいえないと答えており、不満足と答えた患者は全体の数%しかなく、まったく満足していないと答えた患者はさらに少なく1%程度です。つまり、モンスターペイシェントになりそうな患者は全体の数%、明確な不満を抱く人がモンスターペイシェントになると考えれば、100人に1人程度しかいないことを意味します。

参照:公益社団法人日本歯科医師会

医師・患者それぞれの信頼度

歯科衛生士 嫌な患者

歯科医師ではなく、医師を対象にしたアンケートでは、医師側・患者側それぞれから信頼関係が築けているかどうかの質問があります。この中で医師が患者と信頼を築けていると感じる割合は、ややそう思うまで含めると94.3%まで達します。しかし、患者が医師と信頼を築けていると答えた割合は、ややそう思うまで含めても75.9%しかありません。

つまり、医師側は信頼関係が築けていると思っても、患者側は医師と信頼関係を築けていないと感じやすいと言えます。これは診察に対する満足度にもつながっており、患者側は医師が思っているほど満足しているわけではないことがわかります。

この調査は医師を対象にした調査ですが、医師と患者の信頼関係に対する認識にはギャップが生まれやすいことが言えるでしょう。

参照:NTTコムリサーチ

歯科衛生士が感じる嫌な患者の特徴

歯科衛生士 嫌な患者

本項目では、歯科衛生士が感じる嫌な患者の特徴について解説します。

指摘しても直そうとしない

歯科衛生士の仕事は、ブラッシング指導など、歯の健康を保ってもらうためにセルフケアに関する指導を行うほか、歯石除去など口の中を清潔に保つ医療行為を行います。歯垢だらけで磨き残しも多く、歯石が目立って歯肉が腫れて虫歯ばかりだと歯科衛生士はがっかりします。しかし、ブラッシング指導などの結果、みるみるうちに状態が改善されていけば、何の問題もありません。

嫌な患者は、これらの指導を無視し、いつまでたっても口の中が汚いままで定期的に虫歯治療を行うような状態にしがちです。再三の指導にも対応しない患者がいて、しかも悪態をつく状態では、歯科衛生士からすれば嫌な患者と思うのは当然です。

キャンセルや遅刻が多い

歯科衛生士 嫌な患者

歯科衛生士や歯科助手は予約に合わせて準備を進めるため、キャンセルや遅刻が多い患者に対してはあまりいい感情を持ちません。一定時間遅刻をすると当日の診療を断る歯科医院も少なくありませんが、そこで執拗にクレームをつけるのがモンスターペイシェントです。

キャンセルや遅刻が多い患者は、ブラッシング指導にも協力的とは言えず、歯の治療においても後ろ向きな部分が見られます。加えて、スケジュール管理も難しいとなると、歯科衛生士や歯科助手からすれば、厄介な存在としか言いようがありません。

言動が荒く粗暴

嫌な患者、モンスターペイシェントの多くは言動が荒く粗暴で、身の危険すら感じるようなケースもあります。暴言を吐くだけでなく、何かしらの威嚇を行って脅しにかかるケースもあり、歯科衛生士からすれば、怖さを感じるほかありません。

またセクハラにつながる発言を行う患者も、歯科衛生士からすれば嫌な患者と言えます。

歯科衛生士が思う嫌な患者に対する対策・対処法

歯科衛生士 嫌な患者

本項目では、歯科衛生士が思う嫌な患者に対する対策・対処法をまとめました。

感情的な対応をしない

モンスターペイシェントを始め、大声で怒る患者は興奮状態にあり、たとえ正論であっても、自らの意見を否定されることに強く反発します。そんな中で感情的な対応をしてしまえば、火に油を注ぐ形となり、事態をより悪化させるでしょう。

たとえ大声で怒鳴られてもできる限り冷静な対応を目指すのが大切です。最大限、患者と向き合ってヒアリングを行うような姿勢をとっていくことが求められます。

できる限りコミュニケーションを尽くす

歯科衛生士 嫌な患者

モンスターペイシェントは、「自分は蔑ろにされている」とコミュニケーション不足を感じており、コミュニケーションをしっかりととっていくことで聞く耳を持ってくれる可能性が出てきます。とにかく否定されることを嫌がるので、コミュニケーションを尽くすことで、「自分は大切に思われている」と思いやすくなります。

話を聞いてくれないなどの理由からどんどん怒りが増幅するケースもあるため、相手が喋っている限りは聞く側に回るという対処も必要です。

信頼関係に関しても、コミュニケーションがしっかりと取れていないことが大きな要因となっており、嫌な患者相手とはいえ、できる限りコミュニケーションを尽くすことが対処法として有力です。

原因をはっきりとさせる

嫌な患者・モンスターペイシェントがなぜ怒っているのか、その原因をはっきりとさせることも大事な要素です。不安に感じている部分があるから怒っているため、何に不安を感じているのかを突き止めることで、適切な対処ができます。

原因が分かれば、間違った対応をしなくて済むため、相手をより怒らせる心配がなくなります。原因をはっきりとさせることは、今後の対応を考えると必須と言えるでしょう。

事実と違う部分には安易に同意しない

歯科衛生士 嫌な患者

相手の勢いに押されて、ついつい相手の言っていることに同調したり、同意したりすることがあります。しかし、安易に同意すると相手は自分の主張が認められたと感じ、別の歯科衛生士や歯科医師が対応した際に、「あいつが認めた!」と言い始め、収拾がつかなくなることがあるのです。

事実と違う部分があれば、決して同意や同調をせず、その場で判断をしないことが求められます。

ささいな要求にも従わない

モンスターペイシェントは少しでも要求が通れば、次からその要求をエスカレートさせていく可能性が高いため、注意が必要です。たとえ、ささいな要求であっても絶対に従わず、安易に譲歩しないことが重要と言えます。

歯科衛生士がモンスターペイシェントに対して何かしらの要求をされても、歯科医師や院長に一任することが求められます。その際に、歯科医師や院長が適切な対処ができるよう、事実関係や要求されている内容をまとめておくことも欠かせません。

歯科衛生士が嫌な患者に出くわす可能性

歯科衛生士 嫌な患者

アンケートにおいて、明確に不満を抱く患者は100人に1人程度とされているため、1日20~30人程度の患者が訪れる歯科医院の場合、少なくとも毎週1人は明確な不満を抱いている患者と出くわすと言えるでしょう。

つまり、毎週強い不満を持つ患者と遭遇する可能性が高く、自分の担当になる可能性も十分に考えられるのです。日常茶飯事とまではいかないにしても、出くわす可能性は毎週訪れるため、事前にモンスターペイシェントに関する対処法を万全にしておくことが求められます。

一方、多少の不満を抱える患者は5%ほどいるため、毎日患者1人がちょっとした不満を抱く可能性があります。この患者が将来的にモンスターペイシェントになる可能性が考えられるため、常日頃からコミュニケーションを尽くしていくなどの対処が必要です。

嫌な患者(モンスターペイシェント)の実例

歯科衛生士 嫌な患者

本項目では嫌な患者(モンスターペイシェント)の実例をご紹介します。

治療費を払わない

歯科医院側のミスなどで、後日正しい治療費の請求を患者に求めることがあります。その際に患者側が余計に支払うことになるため、支払いを拒み続けるケースがあるのです。患者側は謝罪要求を求め続け、歯科医院側は最初は拒もうとするも、結局謝罪をして支払ってもらうことがあります。

歯科医院側のミスのため、患者側に謝罪をするのは当然のことですが、これに乗じて慰謝料を請求するような動きには毅然とした対応を見せることが求められます。

順番を抜かされたというクレーム

歯科衛生士 嫌な患者

歯科医院に限らず、順番を抜かされることに対して、多くの人は敏感です。明らかに後から来たのに、順番を抜かされるとモヤモヤした気持ちになります。決して嫌がらせで順番を変えるわけではなく、さまざまな要因があって先に治療を行うケースもあります。

そのことに対してクレームをつける患者がいた場合には、丁寧に事情を説明していくことと謝罪が欠かせません。そして、準備の関係で前後してしまうことはあると伝えて、納得してもらうことが必要です。

嫌な患者には毅然な対応が一番

歯科衛生士 嫌な患者

嫌な患者・モンスターペイシェントの多くは言いがかりのようなクレームであり、真っ当なクレームはそこまで多くはありません。ゆえに、クレームを受けたからといって、譲歩しようとはせず、まずは毅然な対応が求められます。毅然な対応をする中で、話をしっかりと聞いていく姿勢が必要です。

歯科医院側に落ち度がある場合には、丁寧に謝罪を行うことも重要です。時間がある限りは最大限誠意を尽くし、必要以上に謝罪などを要求する場合には、以降の治療を断る姿勢も欠かせません。

まとめ

歯科衛生士は患者との距離が近い分、歯科医師には言えないクレームを直接ぶつけられることもあります。そのせいで歯科衛生士が気を病んでしまうこともあるため、歯科医院側は適切な対処を行うことが求められます。

モンスターペイシェントは次第にエスカレートしていくこともあるため、時に院長が出てきて、以降の治療を断固拒否するぐらいの姿勢をもつことも必要です。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者