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2024.09.07

  • コラム

歯科健診の義務化はいつから?費用や重要性、国民皆歯科健診と労働安全衛生法改正についても解説!

歯科検診 義務化

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

皆さんは歯科健診義務化についてご存じですか?今までは歯科健診は義務ではありませんでしたが、今後歯科健診が義務化されていくと言われています。なぜ歯科健診義務化が必要なのか、いつから始まるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

本記事では歯科健診義務化にスポットを当て、違反した場合のペナルティなどを解説していきます。

歯科健診義務化とは

歯科検診 義務化

そもそも歯科健診義務化とはどういうことなのか、基本的な内容を解説します。

歯科健診義務化の概要

歯科健診義務化は元々日本歯科医師会が長年提唱してきた考え方であり、2022年にあった政府の「骨太の方針」において国民皆歯科健診という文言として示されました。

歯周病は糖尿病などとリンクしやすく、口の中の健康が全身の健康に直結するという考えが根底にあります。また、高齢者の口腔ケアという観点でも定期的な歯科健診が必要であると日本歯科医師会は考えてきました。その結果、歯科健診義務化が行われようとしています。

歯科健診義務化はいつから?

歯科検診 義務化

現状ではまだ決まっていませんが、2025年に歯科健診義務化が行われるとされています。制度設計などはこれからですが、少なくとも2025年以降に1年に1回程度歯科健診を受けなければならない時代が訪れるかもしれません。

実は、「有害な業務」で働く労働者に関しては歯科健診義務化が行われています。この場合の「有害な業務」とは、塩酸や硝酸など有害物質を用いたり、上記などが発散されたりする場所での業務を示しており、これらに従事する労働者に対して歯科健診が義務化されているのです。

原則として半年に1回の歯科健診が義務となり、使用者は労働者に受けさせることになっています。

歯科健診義務化に関する費用

2024年4月時点において、歯科健診義務化に関する必要、自己負担額などは明らかにされていません。基本的に歯科健診に対して保険適用がなされ、現状の定期健診では3,000円程度かかると言われています。

そのため、歯科健診義務化では現状の定期健診の値段が適用されると考えるべきでしょう。一方で企業において義務化された場合には企業が負担する形で歯科健診が受けられる可能性があります。この場合、労働者は自己負担なしで歯科健診が受けられると言えます。費用に関するすり合わせは今後検討されなければならないことです。

歯科健診義務化に違反するとどうなる?

歯科検診 義務化

現状では歯科健診義務化に違反した場合のペナルティは決まっていませんが、有害業務従事者に関しては、歯科健診が実施されていなかった場合には事業者に対して50万円以下の罰金が課せられます。

企業には定期健診の保管義務と報告義務があり、健康診断の結果は速やかに所轄の労働基準監督署に報告しなくてはなりません。ちなみに未提出だったとしてもペナルティはないですが、実施していない場合に罰則が発生する形です。

歯科健診義務化においてもこのルールが適用される可能性が高く、50万円以下の罰金があると考えていいでしょう。

一方で、年金受給者など企業に勤めていない人に関してのペナルティがどうなるかは定かではありません。国民皆歯科健診を実施する場合、細かなルールをどうするかは今後の課題と言えるでしょう。

歯科健診義務化の重要性

歯科検診 義務化

ここからは歯科健診義務化の重要性について解説します。

医療費抑制につながる

歯科健診義務化によって、歯科医院の財政が潤うという見方もありますが、裏を返せば、未然に歯の治療を防げることを意味します。例えば、初期の虫歯治療の場合、1回あたり2,000円前後かかるとされます。しかも、1回の治療だけでは終わらないので数回程度かかると考えるべきでしょう。

その場合、1本の虫歯があるだけで10,000円程度の医療費を自己負担することになります。これが神経まで届いているような虫歯だと最終的に20,000円、30,000円とかかる可能性もあるでしょう。

歯科健診義務化により、一時的に費用がかかっても軽い段階で見つけられれば、その分医療費は抑えられます。

歯を失わずに済む可能性が高まる

歯科検診 義務化

何年も歯科医院に行っていないという人もいるのではないでしょうか。自治体によっては一定の年齢に達したら安い値段で定期健診が受けられる制度を用意し、市民税非課税世帯であれば無料で受けられるケースもあります。

しかし、それらの制度がないとわざわざ自分から定期健診を受ける人は多くなく、何らかの異常・違和感が見つかってから仕方なく行く人がほとんどです。その時には一定以上のダメージを負っているケースが多く、手遅れになって抜歯が不可避となるケースもあります。

歯科健診義務化により、口腔へのダメージが初期の段階で見つけられれば歯を失わずに済む可能性が高まるでしょう。歯を失うと認知症などに直結しやすいと言われており、80歳で20本の歯を持つことが推奨されています。そのためにも歯科健診義務化は重要と言えるでしょう。

心身の健康につながる

歯があることは、心身の健康にもつながります。自分の歯でしっかりと咀嚼することはもちろん、歯があることで口を開けて笑えることにもつながり、心身の健康に直結するでしょう。歯周病を防ぐことで糖尿病や心筋梗塞の予防につながるなど、さまざまなメリットがあります。

歯科健診を義務化することで歯に対する意識改善にもつながり、セルフケアの重要性が増すことも考えられます。

歯科健診義務化にも通じる国民皆歯科健診の考え方

歯科検診 義務化

国民皆歯科健診の議論が出てきたのは、歯科健診の受診率が低いことが理由としてあるためです。学生までは歯科健診の機会が定期的にあるものの、年齢を重ねていく中で歯科健診の機会が減ってしまう現状があります。そのため、いつの間にか歯周病などになっているケースが出てきてしまうのです。

気づいた時には歯周病になっていたケースが多く、取り返しがつかない事態になっていることも多々あります。実は歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こすことが指摘されており、高齢者にとって他人事ではありません。

歯科健診義務化と労働安全衛生法改正の関連性

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ここからは歯科健診義務化と労働安全衛生法改正の関連性について解説します。

定期健診と労働安全衛生法の関連性とは

企業が定期的に行う健康診断は労働安全衛生法に基づいて行われます。仕事が原因で病気になったり悪化したりするのを防ぐために定期健診が行われ、違反すれば罰則の対象となっています。費用はすべて事業者負担ですが、労働者に関しても受診義務があるのが特徴です。

定期健診の中身は年々項目が増えており、1972年に始まった際には血圧測定や尿検査など簡単なものに限られていました。平成に入ってから肝機能検査や脂質検査、血糖検査などが追加されて今に至ります。

2022年に労働安全衛生法が改正

歯科検診 義務化

有害な業務に従事する労働者を対象とした歯科健診の義務化は、2022年に行われた労働安全衛生法の改正によって定められました。この改正に伴い、労働者が50人未満の事業所であっても労働基準監督署への報告が義務化されたのです。

たとえ労働者が1人しかいないケースであっても、事業所は労働基準監督署への報告をしなければならず、未実施であれば罰金の対象です。

歯科健診義務化は本当に必要か

歯科検診 義務化

最後に歯科健診の義務化は本当に必要なのかについて検討していきます。

義務化されないと歯科健診を受けない人が多い

歯科健診の重要性は既に指摘され続けており、歯科健診を定期に受けることは大切です。しかし、義務ではなく任意のため、わざわざ歯科健診を受けない人がほとんどと言えます。歯科健診を受ける人の多くは以前虫歯など治療を受けた人で、その際に定期健診の予約を入れることになったケースが目立ちます。

つまり、何の異常もない中で歯科健診を受ける人は稀です。歯科健診の義務化により、仕方なく歯科医院に足を運んで歯のチェックを受ける人が増えるでしょう。その場合に早期に治療箇所が見つかる可能性も出てきます。義務化だからこそ見つけられたというケースも増え、結果として国民全体の歯の健康レベルが高まる可能性が出てきます。

先進国では既に義務化は行われている

歯科検診 義務化

日本以外の先進国では、歯に対する意識が非常に高く、日本と比べても高齢者の歯の数は多いと言われています。厚生労働省の調査では、80歳段階での平均残存歯数は日本がおよそ15本だったのに対し、予防に熱心な先進国はおよそ25本と高い数値を残していたことが明らかです。

熱心に予防に取り組むだけで10本多く自分の歯を残せるようになっています。また、医療技術的には大差がない中でこれだけ大きな差につながることは、いかに予防が重要かを示していると言えるでしょう。

これらの調査を鑑みても、歯科健診の義務化は必要であり、今すぐにでも行うべき施策であることは間違いありません。

まとめ

歯科健診は歯を守るという観点で考えれば必要なことであると同時に、義務化がされていないとしても積極的に行っていきたいところです。自治体によっては3,000円程度かかる定期健診の費用が500円程度に軽減してくれるケースもあり、利用する価値は十分と言えます。

一方で、会社が行う定期健診の中に歯科健診が含まれれば、わざわざ歯科医院の予約をとらなくても済む形も見込めるでしょう。そのあたりの制度設計をどのようにしていくかが、今後の課題となります。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者