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2024.09.07

  • コラム

麻酔ができる歯科衛生士「臨床歯科麻酔認定歯科衛生士」とは?法令や基礎知識、条件について解説

歯科衛生士 麻酔

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

歯科医師や歯科衛生士、歯科助手にはスキルアップを図るための認定資格が多く存在しています。歯科衛生士における認定資格の1つとして存在するのが、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士です。麻酔に関する認定資格であり、取得しておくことでどんなメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

本記事では臨床歯科麻酔認定歯科衛生士に着目し、資格の中身や取得の条件などをまとめています。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士とは何か

歯科衛生士 麻酔

そもそも臨床歯科麻酔認定歯科衛生士とはどういう認定資格なのか、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士に関する基本的な情報をまとめました。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の概要

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士は、一般社団法人日本歯科医学振興機構が認定する資格です。実は歯科衛生士も一定の条件にあれば麻酔を行えますが、その事実は世間一般にあまり知られていません。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士を通じて、歯科衛生士でも麻酔を行える環境を整えていくために作られました。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士でなくても麻酔はできる

歯科衛生士 麻酔

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の認定資格がなくても、歯科衛生士は麻酔が行えます。なぜ歯科衛生士でも麻酔が行えるのか、本項目ではその理由をまとめました。

麻酔も診療補助の1つだから

歯科衛生士は歯科医師の診療補助として歯石除去などの医療行為が行えますが、その中の1つに麻酔があります。歯科医師の指示が条件となりますが、歯科医師が歯科衛生士に対して的確に指示を出す状況にあれば、診療補助の1つとして麻酔が行えるのです。

歯石除去やホワイトニング、矯正で用いるワイヤーの交換などは相対的医行為と呼ばれ、歯科医師の指示がなければできないものの、指示があれば行える行為となります。

そのため、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の認定資格があるから麻酔が行えるわけではなく、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の資格がなくても麻酔を打つことは可能です。また、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の資格があるからすぐに麻酔が打てるようになるわけでもありません。

なぜ臨床歯科麻酔認定歯科衛生士があるのか

歯科衛生士 麻酔

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士が存在する理由は、麻酔に関する知識などを持っている証拠となり得るからです。臨床歯科麻酔認定歯科衛生士は歯科衛生士のスキルアップを目的に設置されており、歯科衛生士としてレベルアップを図るため、受講している人が多く存在します。

歯科衛生士が別の歯科医院に転職する場合に、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の資格があれば麻酔を打つための知識などを持っていることを証明できるというメリットも出てきます。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になるための条件

歯科衛生士 麻酔

本項目では、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になるための条件について解説します。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の認定講習会を受ける

一般社団法人日本歯科医学振興機構では定期的に臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の認定講習会が行っており、講習を受ける必要があります。

講習では歯科衛生士の麻酔行為に対する説明や臨床導入を行う法的根拠などを解説するほか、麻酔の実習も行い、安全に麻酔を行う方法がレクチャーされる流れです。その後、認定試験が行われ、後日合否の判定が出されます。合格すれば臨床歯科麻酔認定歯科衛生士としての認定を受けます。

講習会そのものは2020年に第1回が行われ、資格の歴史自体はまだまだ新しいものですが、麻酔を打ちたいと考える歯科衛生士が参加している状況です。

講習会には歯科医師の同伴が推奨されている

歯科衛生士 麻酔

講習会は歯科衛生士のみの参加も一応認められている一方、歯科医師の同伴での申し込みが推奨されています。歯科衛生士の麻酔行為は、歯科医師の指示が必要です。臨床歯科麻酔認定歯科衛生士への指示は、臨床歯科麻酔管理指導医の指示を要するという紹介があるため、歯科医師と一緒に申し込むことが推奨されています。

歯科医師が講習会に参加した場合、臨床歯科麻酔管理指導医の資格を得られるため、歯科衛生士に麻酔行為をさせる場合、歯科医師も一緒に参加した方がいいのです。

歯科衛生士の免許を取得してから2年経過することも条件

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の講習会を受けるためには、歯科衛生士の免許を取得して2年が経過していることも条件となります。受験資格に定められているため、2年未満だと受験資格自体が与えられません。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になっても麻酔行為をさせてもらえないケース

歯科衛生士 麻酔

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になったからといって、すぐに麻酔行為をさせてくれるわけではありません。本項目では資格を得ても麻酔行為をさせてもらえないケースを解説します。

歯科衛生士が麻酔行為を行う必要がない

歯科医院で麻酔を活用するケースは歯の治療を行うケースがほとんどです。治療に入る前に麻酔を行うのが一般的ですが、この場面で麻酔の注射を打つのは歯科医師であり、治療の流れで行われます。麻酔の時だけ歯科衛生士に代わって打ってもらうのはあまり効率的とは言えません。

歯科衛生士が麻酔行為を行うとすれば、SRPを行う場面が多く、歯周ポケットの中の掃除の際に痛みが生じるのを防ぐのに用いられるケースが目立ちます。しかし、SRPで痛みを伴うケースは歯科衛生士のSRPの技術が単に未熟であって、歯肉を必要以上に傷つけていると考える歯科医師もいます。麻酔がなくても技術があれば痛みをさほど与えずに済むため、麻酔を行うことは、SRPの技術向上を邪魔するものになると考えることも可能です。

以上の点から、歯科衛生士が麻酔を行う必要はないと判断され、たとえ臨床歯科麻酔認定歯科衛生士の資格があったとしても歯科衛生士に麻酔は打たせないと判断する歯科医院があるのは仕方ないと言えます。

歯科衛生士に麻酔行為をさせることに抵抗がある

歯科衛生士 麻酔

歯科衛生士は麻酔行為ができないと長らく指摘され、最近になってようやく歯科衛生士でも麻酔行為はできるという流れが出てきています。歯科医師によっては、歯科衛生士に麻酔行為をさせるのはどうなのかと疑問を持ち、歯科衛生士にはやらせたくないという思いを持つ人が少なくありません。

歯科医師によっては、歯科衛生士に麻酔行為はさせないという意見を表明する人もおり、全員が全員、賛成しているわけではないと言えます。その一方で、歯科衛生士に積極的に講習を受けさせる歯科医院もあり、考え方は歯科医院によって異なると言えるでしょう。臨床歯科麻酔認定歯科衛生士をアピールの1つとして歯科医院側が活用するかどうかの差と言えます。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になるメリット

歯科衛生士 麻酔

歯科医師によっては反応が異なる歯科衛生士の麻酔行為ですが、本項目では臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になるメリットを紹介します。

安全に麻酔が行える

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士にならなくても、歯科医師が指導、監督をしっかりと行っていれば、歯科衛生士が麻酔自体を打つことはできます。しかし、歯科医師側に麻酔に対する知識があっても、歯科衛生士にその要望に応えるだけのスキルや知識がなければ、何らかのトラブルが起きても不思議ではありません。

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になるには、講習で多くのことを学び、実際に実習を行っていきます。AEDの活用法なども学び、内容は麻酔だけに限りません。万が一体調が急変しても、迅速な対応を行えるような講習も受けられます。より安全に歯科衛生士が麻酔行為を行えるようにするために、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士が存在すると言っても過言ではありません。

歯科衛生士のモチベーションアップ

歯科衛生士 麻酔

臨床歯科麻酔認定歯科衛生士になることで、歯科衛生士のモチベーションアップにつながります。歯科衛生士の仕事範囲が広がる分、やりがいが生まれやすいほか、スキルアップにもなるため、年収アップにつながる可能性も十分あるでしょう。

歯科衛生士に関連する認定資格は多く、「日本歯周病学会認定歯科衛生士」や「日本口腔インプラント学会認定歯科衛生士」などそれぞれの学会が認定する歯科衛生士の資格があります。これらを取得していれば、歯周病やインプラントに関連する知識を有していることを意味するため、転職の際に有利になる可能性が高いです。

いくつかの専門分野を持つことは魅力的な歯科衛生士に思われやすく、市場価値は高まります。歯科衛生士としてのモチベーションも高い状態でキープしやすくなるので、認定資格は取っておいて損はありません。

歯科衛生士が麻酔を打つ根拠となる法令

歯科衛生士 麻酔

歯科衛生士が麻酔行為を行える根拠となる法令には、「歯科医師法」・「歯科衛生士法」・「保健師助産師看護師法」があります。また、昭和61年に行われた「歯科衛生士の業務範囲についての調査報告」や昭和40年に当時の厚生省が日本麻酔学会に出した「麻酔行為について」という回答も歯科衛生士が麻酔を打てる根拠となり得ます。

まとめ

今までも歯科衛生士が麻酔行為を行うことは可能でしたが、臨床歯科麻酔認定歯科衛生士を取得することでより患者に安心してもらえる形で麻酔行為が行えます。ここ数年で誕生した認定資格ですが、全国各地の歯科医院の歯科医師・歯科衛生士が受講している状況です。

歯科医師の中でも意見が分かれるジャンルではありますが、歯科衛生士のキャリアアップを考えると臨床歯科麻酔認定歯科衛生士は目指すべきものと言えます。もしかしたら、当たり前のように歯科衛生士が麻酔を打つ時代が来るかもしれません。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者