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2024.09.07

  • コラム

歯科医師国保とは?国保との違いや加入するメリット・デメリット、加入する方法について徹底解説

歯科医師国保とは

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

業界によってはその業界で働く人のみが入れる国民健康保険が存在します。歯科医院で働く人にも専用の国民健康保険があり、それが歯科医師国保です。一般的な国保(国民健康保険)と何が違うのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、歯科医師国保とは何かを中心に、国保との違いや加入のメリット・デメリット等を解説します。

歯科医師国保とは何か

歯科医師国保とは

そもそも歯科医師国保とはどういうものか、本項目では基本的な情報を解説します。

歯科医師国保の概要

歯科医師国保は、歯科医院に従事する人たちで構成された保険です。20の府県で構成される「全国歯科医師国民健康保険組合」など、歯科医師国保を運営している組合は複数存在し、歯科医院がある都道府県によって変わります。国民健康保険法のルールの中で運用され、最大の組織である全国歯科医師国民健康保険組合の場合は、全体でおよそ6万人以上が加入している状況です。

対象者は歯科医院で働く歯科医師や歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士などのスタッフ、およびそれらの家族です。自治体で運営する国民健康保険と大枠は変わらず、2割ないし3割負担の形で医療を受けられます。

歯科医師国保の特徴

歯科医師国保とは

本項目では、歯科医師国保の特徴について解説します。

組合によって保険内容が異なる

歯科医師国保の組合は東京や千葉のように1つの都や県単体で運営されるケースもあれば、20の府県で構成されるケースもあります。そのため、組合によって保険内容が異なることがあるのです。

例えば、出産手当金は組合員が産休の際にもらえます。組合によっては出産育児一時金として支給されるケースがある一方、出産手当金がない組合もある状況です。これは健康診断などの補助、福利厚生的な制度等にも言え、その中身も組合によって違います。加入する組合ではどのような制度があるのかをチェックする必要があるでしょう。

厚生年金への加入は任意

歯科医師国保とは

社会保険に加入する場合、厚生年金への加入もしなければなりません。一方で、歯科医師国保の場合は厚生年金への加入は義務ではなく、任意です。そのため、任意であっても厚生年金に加入して各種保険制度を完備していると宣伝することもできます。

もちろん、厚生年金に入らないのも可能です。しかし、国民年金だけでは老後の備えという観点でいささか不十分な部分もあるため、スタッフに長く働いてもらいたいと考えた場合、厚生年金への加入もしくは社会保険への切り替えも将来的には検討すべきと言えます。

歯科医師国保と国保の違い

歯科医師国保とは

本項目では、歯科医師国保と国保の違いについて解説します。

歯科医師国保には傷病手当金がある

ケガなどで働けなくなった場合にもらえるのが傷病手当金ですが、主に社会保険に加入する人が対象となっており、国民健康保険には傷病手当金がありません。

しかし、多くの歯科医師国保の組合には傷病手当金があります。例えば、東京都であれば、サラリーマンが加入している一般的な健康保険と同等の制度が用意されている状況です。また多くの組合では入院した場合に手当が与えられるケースが目立ちます。一方で、一部の組合では傷病手当金の制度がありません。

歯科医師国保は勤務する歯科医院での治療が受けられない

歯科医師国保とは

国民健康保険や社会保険であれば、どの医療機関で診療を受けても医療費は2割ないし3割負担で済みます。ところが、歯科医師国保の場合、勤め先で治療を受ける際には保険請求ができないため、10割負担の形になってしまうのです。

例えば、自分の父親ないし母親が働く歯科医院で子供が歯の治療を受けたい場合、歯科医師国保に加入している子供の治療費も保険の対象外となるため、高額の治療費になってしまいます。この場合は別の歯科医院で治療を受けるか、歯科医院側が3割負担で済むように対応するか、いずれかの判断が問われるでしょう。

歯科医師国保に加入するメリット

歯科医師国保とは

本項目では歯科医師国保に加入するメリットについて解説します。

保険料が一律である

歯科医師国保は国民健康保険や社会保険と異なり、所得に関係なく保険料が一律です。保険料など細かな金額は組合によって異なりますが、保険料が一律という仕組みはどの歯科医師国保の組合でも同じです。

例えば、神奈川県歯科医師国民健康保険組合の場合、「医療分保険料」に関しては事業主である「第1種組合員」が29,500円、勤務医である「第2種組合員」が22,500円、歯科衛生士や歯科助手などの「第3種組合員」が15,500円、組合員の家族が10,000円です。

事業主の院長がどれだけ収入があったとしても、歯科医師国保に加入している以上は常に保険料が一律のため、状況次第ではかなりお得と言えます。

福利厚生が存在する

歯科医師国保とは

歯科医師国保に加入すると、組合によっては魅力的な福利厚生が利用できます。例えば、東京都歯科健康保険組合では「宿泊助成金」があり、年3泊までについて、1泊1,500ないし2,000円の助成金が支給されます。他にも保養所が利用でき、宿泊助成金とセットで利用可能です。

また千葉県歯科医師国民健康保険組合では、人間ドックや生活習慣病健診の補助やインフルエンザワクチン接種の補助なども用意されています。福利厚生の中身は組合によって異なるため、事前のチェックがおすすめです。

歯科医師国保に加入するデメリット

歯科医師国保とは

本項目では歯科医師国保に加入するデメリットについて解説します。

扶養家族が多いと負担が増す

歯科医師国保のベースとなっている国民健康保険には扶養の概念がありません。そのため、加入する家族が多ければ多いほど歯科医師国保の保険料は増します。扶養家族が多いスタッフの場合、歯科医師国保への加入は保険料の負担増につながります。

歯科医院で働く従業員の人数によっては、扶養の概念がある社会保険に加入できるので、社会保険になれば負担は軽減されるでしょう。

一方で、いまだ歯科医師国保の歯科医院の場合、新たなスタッフを採用する際に注意が必要です。社会保険から歯科医師国保への切り替えが必要となって負担増を嫌がる応募者が出てくることも考えられるからです。

歯科医院からすれば、最も負担を抑えられるのが歯科医師国保ですが、スタッフからは評判がいいとは言えないでしょう。どのように折り合いをつけていくかが問われます。

加入者が保険料を全額負担する

歯科医師国保とは

サラリーマンも入れる社会保険であれば、保険料は労使で折半となるため、保険料の負担はその分軽減されます。しかし、歯科医師国保は扶養の概念がないために、加入者が全額負担を行い、社会保険よりも負担は重くなります。

スタッフからすると保険料がきつく、扶養家族が多いとその分負担が生じるでしょう。歯科医院国保の歯科医院から健康保険に加入できる歯科医院への転職を検討する人が出てきてもおかしくありません。

あくまでも労使折半の義務がないというだけで、実際にはいくらかを歯科医院が負担することは可能です。その点の対応は歯科医院次第となります。

従業員が5名以上だと加入できない

歯科医師国保は、1つの事業所で従業員が4名以下の歯科医院だけが加入できる保険で、5名以上となると社会保険へ加入することになります。

社会保険に切り替わることで、労使折半の義務が生じるため、歯科医院に対して一定の負担が生じる形です。毎月の固定費が増してしまうため、利益が減る恐れもあります。

歯科医師国保への加入方法

歯科医師国保とは

最後に、歯科医師国保への加入方法について解説します。

事業主や従業員が加入する場合

事業主が歯科医師国保に加入する場合は、加入する旨を組合に連絡した上で、組合から必要書類が送付されます。必要書類に漏れがないように記入や捺印を行い、マイナンバーカードの写しなどと一緒に返送する流れです。

その後、送付された資料を見て不備がないかを確認して、不備がないと判断されれば被保険者証が交付される形です。従業員が加入する場合も、基本的には組合に連絡を入れて必要書類を送付していく流れになります。

従業員が5人以上の場合

本来医療法人や5人以上のスタッフを抱える歯科医院は社会保険への加入となりますが、実は例外があります。健康保険被保険者適用除外に関する手続きを行うことで、社会保険に入らず歯科医師国保に加入できるのです。

この場合は、資格取得届などの必要書類のほかに、適用除外承認申請書も送付します。適用除外の承認を受けたら、厚生年金への加入だけが認められ、社会保険への加入をせずに済みます。この手続きをしないと社会保険への加入が強制的に行われ、歯科医師国保から出ていかざるを得なくなる形となるのです。

適用除外申請は以前までは事実の発生日から5日以内に行うことになっていましたが、14日以内に変更され、余裕をもって申請できます。ただし、厚生年金保険被保険者資格取得届は変わらず5日以内のため、一緒に出す必要がある場合には5日以内に行う方がスムーズです。

まとめ

歯科医師国保は、状況次第によってはとてもお得になりやすい他、加入する組合によっては福利厚生が充実しており、魅力的な保険制度と言えます。一方で、扶養人数が多い人ほど負担が大きいため、社会保険に加入できる人や社会保険から歯科医師国保へ切り替えないといけない人からすると注意すべき点がいくつかあります。

地域によって、保険の中身も大きく異なるので、歯科医師国保が用意されている歯科医院で働く際には組合が用意する保険の中身などを十分に確認しておくことがおすすめです。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者