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2024.09.07

  • コラム

クリニックの開業に必要な準備・手順・流れとは?失敗しないための必要なステップについて解説

開業 クリニック

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

街中には多くのクリニックが存在しており、個人で特定の診療科に特化して診療に励む医師が多くいます。医師免許を取得した人にとって自分のクリニックを持つことは、一国一城の主になったような気分と言えます。そんな時に注意したいのがクリニックの開業に関すること全般です。

本記事ではクリニックの開業に関する話題を中心に、クリニックの開業におけるメリット・デメリットや必要な準備などを解説していきます。

クリニックの開業で確認しておきたい今の環境

開業 クリニック

クリニックの開業を目指す際には、まずクリニックを取り巻く環境を理解しておくところから始めなければなりません。ここからはクリニックを取り巻く環境について解説します。

場所によっては飽和状態のところも

都市部の駅に降り立つと、ありとあらゆるクリニックが目につき、調剤薬局が駅のすぐ近くにある場合も珍しくありません。この状況だと、クリニックが既に飽和状態にあり、激戦区の中に飛び込んでいくような形になります。

今後人口減少社会となり、診療報酬も青天井とは言えない状況になり、淘汰が進むと言われています。無計画にクリニックの開業を行うことは無謀であり、ニーズなどを考慮した上で開業していくことが求められます。

なぜそのエリアにするのか、その理由を明確にすることが大事であり、仮に思い出の地などで開業する場合にはどのように淘汰されないようにしていくかを考えなければなりません。

医療モールの存在

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近年注目されているのが医療モールの存在です。医療モールはテナントすべてが個々のクリニックで構成されたエリアで、そのモールだけでさまざまな診療科が網羅できるような環境にあります。

理想的なのは、医療モールに入ることで、その医療モール内ですべてが完結するような状態になることです。また医療モールに行けばあらかたの治療が受けられるとなれば派手に集客をしなくても、一定の患者は集められると言えるでしょう。

ただこの医療モールも最近では増加の一途を辿り、競争は激化している状況です。どの医療モールに入るのかも重要であるとともに駐車場の存在なども考慮して選定していくことが求められます。

クリニックの開業のメリット・デメリット

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ここからはクリニックの開業に関するメリット・デメリットについて解説していきます。

クリニックの開業のメリット

クリニックの開業での一番のメリットは収入面です。2006年の調査では、病院に勤務する医師の年収は平均1,479万円で、開業医の年収は法人の場合だと2,530万円、個人の場合でも収支差額2,458万円とおよそ1,000万円違うことが明らかとなっています。

参照:厚生労働省「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について

開業したらいきなり年収が上がるわけではないものの、順調に経営が行われれば一定以上の年収アップが見込めます。加えて、法人化した場合には今まで経費にできなかったものを、経費として扱えるようになり、節税効果も期待できます。自らのクリニックを開業することで、年収面を始めとして多くのメリットが想定できます。

クリニックの開業のデメリット

開業 クリニック

クリニックを開業することのデメリットは、医師以外の仕事もこなさなくてはならないことです。例えば、勤務医の場合であれば患者のことを第一に考えればよく、医院の経営に真剣に取り組む必要はありませんでした。ところが、クリニックを開業すれば、自らが院長となり、会社における社長のような存在になるため、経営にも注力しなければなりません。

経営者としてクリニックの運営に携わる必要があるため、今までのように患者のことばかりを考えた経営をしていればいいわけではありません。開業資金の工面なども経営者としての責務です。年収がある程度上がっても借金返済を行わなければならないなど、やることは格段に増えるでしょう。

クリニックの開業で必要な準備とは

開業 クリニック

ここからはクリニックを開業する際に必要な準備について解説していきます。

クリニックの場所探し

クリニックの開業を進めていく中で重要となるのが、どのエリアでクリニックを開業するかについてです。飲食店などと違い、目ぼしいテナントを見つけたらそこに入ればいいという考えでは成立しません。例えば、心療内科のクリニックを開業したい場合、周囲に心療内科のクリニックがないか、そのエリアにおいて心療内科の需要があるかなどを調査する必要があります。

一方で、居抜きのような形で、前もクリニックとして使われてきたテナントなどを活用するケースも考えられます。

計画立案と資金調達

開業 クリニック

クリニックの開業にあたり、事業計画の立案などを行っていきます。開業にあたっていくらぐらいの投資規模で計画を立てていくか、初年度の収支に関する想定など資金面に関する計画を立て、融資などを検討していきます。

クリニック開業においてすべて自己資金で調達できるケースは、家族がクリニックを経営しているケースなどに限られ、イチから立ち上げる場合には基本的に融資を前提とします。毎月の返済をどうするかなども考えなければならず、いかに金融機関を説得して融資を得られるかも大事な要素です。

クリニックの内装や医療機器の設置

テナントに入る場合や新築で建設する場合、元々あった建物に入る場合、いずれかのケースであっても内装を行う必要があります。何色を基調とするのか、どのような空間を目指していくのか、内装の出来次第で大きく変わるでしょう。

また、どの医療機器を設置していくかも大事です。いつまでに納品されるか、医療機器の操作、そして、購入もしくはレンタルの選択なども必要となります。

人事面・広告面など

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あとは人事面や広告面などにも取り組まなければなりません。看護師や医療事務を行う担当者などを早急に確保した上で研修を重ねていくほか、広告面においても、早急に広告を出して周辺地域における周知徹底を行う必要があります。

最初のうちは患者がなかなか増えないケースが見られますが、口コミなどで広まっていく可能性が高いため、最初の一定期間は広告に力を入れていくことが大切です。

クリニックの開業までの手順・流れ

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本項目ではクリニックの開業までの手順や流れについて解説していきます。

クリニック開業は少なくとも1年の準備が必要

クリニック開業ではまずどのエリアにクリニックを設置するかが重要です。エリアを決めてから場所の確保をしなければならず、地方部であれば土地を確保した上でクリニックが入る建物を建設するケースも出てきます。そのため、テナントに入る場合でも1年、戸建てで開業する場合には1年半は必要となるでしょう。

それだけの長い期間を確保することは一見すると長すぎる印象を与えますが、資金面の確保やクリニックの方針などを考えていくと、1年以上の準備期間は決して長すぎることはありません。

半年前までには物件の契約を済ませる

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開業の半年前までにはさまざまな計画を立てて、リサーチを重ねていき、最終的な費用面の計画を決めます。その上で物件の契約を済ませる段階に入るべきなのが開業の半年前です。

融資面で調整する場合も開業の半年前が1つのターニングポイントとなり、この時までに決めておかないと苦しくなります。

人事面・広告面はクリニック開業の3か月前から

受付の事務などのスタッフ、看護師の確保、場合によっては勤務医を手配していく場合には、開業の3か月前から始めるのが理想的です。そして、3か月程度前からオープン予定地にクリニック開業を知らせる看板を出すなどして周知徹底を行わないといけません。

ポスティングを行うほか、場合によっては内覧会や相談会を開催するなどして患者を集めていく手もあります。特にオープンして間もない時期は内覧会や相談会を開くクリニックも存在します。また、広告面において業者に依頼を出す場合も、クリニック開業の3か月前をメドに活動を始めていくのが理想的です。

クリニックの開業で失敗しないための必要なステップ

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クリニック開業を失敗させないための最初のステップとなるのが「診療圏調査」と呼ばれるものです。どのエリアで開業をすれば、どれくらいの患者を確保できそうかについて調べることが診療圏調査で、開業予定地からおよそ500メートル圏内と1キロ圏内の2つに分けて調査を行います。

この診療圏は取り扱う診療科や専門的な内容によって変わり、単なる内科と糖尿病などを専門的に扱う内科などではニーズが全く異なる分、診療圏も大きく変わります。この調査が重要なのは、診療圏調査に関する報告書が金融機関における融資で非常に重要となるからです。需要がありそうだと判断されれば融資が通りやすく、明らかに激戦必至の状況であればさまざまな注文がつく可能性もあります。

内装面などを気にすべきという考えを持つ人もいるでしょうが、どのエリアで開業するかが一番重要であり、絶対に間違えられない部分であると言えるでしょう。

クリニックの開業で注意すべきこと

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クリニックの開業では、自己資金の確保と融資先の選定に注意が必要です。クリニック開業で、場合によっては1億円以上の開業資金が必要となります。この開業資金を自己資金ゼロの状態で工面していくケースが珍しくありません。その分、知人友人家族などから借金をして、その上で融資を受けるような形となるため、早急に結果を出さないと大変な事態を招きます。

一方ですべての開業資金を賄うケースもありますが、両親がクリニックを経営し、クリニック開業をかなり前から想定しているケースが目立ちます。いきなりクリニック開業を志しても、すべてを自己資金で賄うのは困難であり、相当長期的な計画でないと厳しいでしょう。

クリニック開業を志す多くの医師は融資を想定した立ち回りが求められる分、勤務医時代に購入していた投資用マンションで一定のローンを抱えているような場合だと開業時の融資で苦戦する場合があるため、注意が必要です。

まとめ

クリニックの開業は一国一城の主になることを意味するため、開業を目指す多くの医師にとって、入念な調査と周到な準備が必要不可欠となります。一方で、経営者としての才覚も問われるため、患者第一に考えていくスタンスだけでは時に経営が成り立たなくなることもあります。

クリニックの開業にあたっては、先行して開業を行った知人の医師をはじめ、多くの人の相談を受けるほか、一時的に両親が経営する医院やクリニックで働いて状況を見るなどの対策も必要でしょう。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者