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2024.09.07

  • コラム

歯科治療に必要不可欠なハンドピースとは?種類や特徴、セルフメンテナンス方法や滅菌方法まで解説

ハンドピース 歯科

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

皆さんはハンドピースをご存じですか?ハンドピースは歯科治療になくてはならない治療器具の1つであり、多くの人が音だけで嫌がるあのドリルがハンドピースです。このハンドピースにはさまざまな種類があることをご存じでしたか?

本記事ではハンドピースを中心に、種類や特徴、セルフメンテナンスの方法などを解説していきます。

歯科治療に用いるハンドピースとは

ハンドピース 歯科

歯科治療で使われるハンドピースとはどのようなものなのか、まずはハンドピースの基本的な情報について解説していきます。

ハンドピースの概要

ハンドピースは歯を削る際に用いる器具を指します。タービンとエンジンの2つがあり、エアタービンの場合は虫歯治療などで用いられるのが特徴です。歯科医院が嫌いな人にとって最も聞きたくない「キーン」という音は、エアタービンのハンドピースから出てくるものです。

一方、エンジンは銀歯などの詰め物の調整で用いられるほか、ものによっては虫歯を削ることもあります。いずれにしても、自然・人工に関係なく歯を削るものとしてハンドピースが存在します。

歯科治療に用いるハンドピースの種類

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ここからは歯科治療に用いられるハンドピースの種類について解説していきます。

コントラアングルハンドピース

コントラアングルハンドピースは、エナメル質の内側にある象牙質を削る際に用いられるものです。エナメル質は一回失われると再生することは見込めない一方、象牙質は再生が可能とされています。

象牙質は歯髄と呼ばれる部分を守るのに必須であり、軟化した象牙質を取り除きつつ、健全な象牙質を守る際にコントラアングルハンドピースが欠かせません。回転数が若干少ないため、慎重さが求められる治療に向いています。

5倍速コントラアングルハンドピース

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5倍速コントラアングルハンドピースは、文字通り通常のコントラアングルハンドピースと比べて5倍の回転速度になったハンドピースです。一般的なタービンでは、キーンという音が出るほか、削った際に唾液が飛び散りやすいため、衛生的によくないという声がありました。

その点、5倍速コントラアングルハンドピースであれば、振動が少ない分、唾液が飛び散るような形にならないほか、キーンという音も出ないので「あの音が嫌い」という患者も安心です。

ストレートハンドピース

ストレートハンドピースは、入れ歯や銀歯などを削る際などに用いられるハンドピースです。ハンドピースが真っすぐな形をしているのが特徴的で、装着するバーなどはコントラなどと比べると若干大きめです。

人間の歯に直接使うというより、装着前や装着後の微調整で用いるため、人間の口の中で使うことを考慮した形になっておらず、あくまでも調整用です。

プロフィーコントラアングル

プロフィーコントラアングルは、歯石の除去などに用いられるものです。取り付けるバーはゴム状なので歯をしっかりと磨き上げるとともに、研磨材を確実に歯の表面にくっつけて磨いていきます。

電動歯ブラシの先端がゴムのようなものになっていると考えてよく、歯の隙間にもしっかりとフィットするのが特徴的で、スリムな形状もあって作業をする歯科衛生士などの負担軽減にもつながります。

歯科治療に用いるハンドピースの特徴

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ここからは歯科治療に用いるハンドピースに関する特徴を解説します。

構造が意外と複雑

ハンドピースの構造は思った以上に複雑で、精密機器として扱う必要があります。複雑な構造をしているため、患者の唾液や血液が入りやすいほか、削った歯の一部が内側や外側に付着することもあるなど、衛生的な部分に細心の注意を払わないといけません。

単に水洗いをすればいいという代物ではなく、滅菌の際には特殊な器械を用いなければなりません。一方で、わざわざ毎回のように滅菌をするのは大変という部分もあるため、ハンドピースを流用するケースも多く見られます。

値段が高い

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ハンドピースの1本あたりの値段は10~20万円ほどで、取りそろえるだけでも結構なコストになります。ハンドピースの耐用年数は7年とされており、購入して少なくとも7年は使い続けないとコスト的には割に合わない可能性が考えられるのです。

一方でほぼ毎日使う機器ですので、適切な管理をしなければ不具合が生じ、修理や再購入の費用がかかるケースなども考えられるため、常日頃からハンドピースの扱いを丁寧にしているかどうかも大事な要素となります。ハンドピースはそれくらいに精密機器であると言えるでしょう。

歯科治療に用いるハンドピースに関するセルフメンテナンス方法

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ハンドピースに関するセルフメンテナンスの方法についても解説します。

感染防止策を施しながらグローブを付けて洗浄

ハンドピースには患者の唾液や血液などが付着しており、場合によってはそれらに触れることで何らかの病気に感染する可能性があります。院内感染の温床にもなりかねないため、事前に感染防止策を施した状態で洗浄を行っていくことが大切です。

感染防護服やグローブの着用を行った上で、水を流しながらハンドピースの外側を洗っていきます。ふき取る際には除菌シートを活用し、丁寧に外側をふき取っていくことになります。

オイルの注入で内部を洗う

外側を洗ったら、オイルをハンドピースに注入します。この時、ヘッドの部分からオイルが出てきますが、オイルが黒い場合は汚れている証拠なので、透明な状態になるまでオイルを入れていきましょう。透明になれば、中の汚れが洗い流された形です。

このオイルの注入はスプレーオイルで注入するタイプと、専用の器械を用いて注入するタイプがあります。

高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)にかける

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オイルで内部を洗ったら、高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)に入れて滅菌を行います。高圧にすることにより、細菌を死滅させられるため、滅菌が可能です。滅菌したら滅菌バッグに入れて保管を行います。

素早いメンテナンスが欠かせない

ハンドピースの滅菌は時間との戦いでもあります。治療が完了してから少なくとも1時間以内に洗浄や注油などの作業を重ねて滅菌を行い、保管する作業が必要です。これを怠れば、さまざまな問題が生じやすくなるからです。

例えば、唾液や血液が放置された状態だと、衛生面での問題だけでなく、ハンドピース内部で血液などが固まってしまい、サビの原因になってしまいます。しかも、そのサビが発熱を誘発し、ハンドピースに取り付けるバーが外れにくくなるといった問題にまで直結するのです。

ゆえに、治療が終わったら早急にメンテナンスを行わないと、1本10万円以上するハンドピースが耐用年数の7年を待たずに使い物にならなくなります。使い回しを行う歯科医院はもってのほかであることは言うまでもありません。

歯科治療に用いるハンドピースはなぜ流用されるのか

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2017年、厚生労働省の調査で、歯科医院の半数近くがハンドピースを使いまわしている可能性があることが判明しました。驚くべきはその割合の推移です。半数近くの割合でもかなり多く感じますが、この調査の5年前には6割以上の歯科医院が使い回しをしていたという調査結果が出ています。つまり、流用そのものが一般的に行われていた可能性が高いのです。

滅菌が必要とされるのに多くの歯科医院で滅菌されずに使い回しを行う背景には、滅菌のたびにハンドピースが劣化しやすく、コストがかかりやすくなるという事情があります。また多くの患者を診察する際には時間もかかるため、結果として使い回しという判断につながってしまうのです。

近年の歯科医院はホームページを立ち上げるケースが目立ちますが、ハンドピースを多く準備し、滅菌などを行っていることをアピールするケースが増えています。安心安全をアピールすることで、決してハンドピースを使い回す歯科医院でないことを示せるのです。

歯科医院でのハンドピース流用を防ぐ施策とは

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ハンドピースの流用を防ぐ施策が2018年から行われるようになっています。ハンドピースを患者1人1人に合わせて交換していった場合に初診料や再診料の点数を増やすことができるようになりました。逆に交換していない歯科医院は初診料や再診料が減らされるようになったのです。

具体的な仕組みとしては、どのようにハンドピースの滅菌を行うのか、どんな器械を用いるのかなどの届け出を行うことで初診料などを上げられます。届け出をしない場合には診療報酬が下がります。微妙に診療報酬が下がることは患者からすればありがたい話のようで、実はハンドピースの滅菌や交換をその都度行っているわけではないことを意味するので、患者からすると喜ばしいことではありません。

歯科医院からすれば、毎回ハンドピースの滅菌を行い、ハンドピースを流用させないようにした方が診療報酬は上がります。しかも、ハンドピースを常に変え続けていることをアピールできるため、安心安全をアピールできます。

ハンドピースの滅菌をどれだけの歯科医院がしているかの調査は現状ではされておらず、数年間でどのように変化したかは不明ですが、少なくともかなりの改善が見込める状況になったと言えるでしょう。

まとめ

ハンドピースは歯科治療には欠かせないものであると同時に、誰しもが患者ごとに交換しているものだと思っていたはずです。しかし、一時期までは半数以上の歯科医院で患者ごとに交換していたわけではない状況が広がっていました。コロナ禍や診療報酬改定なども相まって、状況は大きく変わったと言えます。

多くの歯科医院ではホームページで、ハンドピースに関する情報を提示しています。お近くの歯科医院ではどのような情報を提示しているか、チェックしてみてはいかがでしょうか。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者