多くの歯科医師は歯科医師会と呼ばれる団体に入ります。この歯科医師会とはどういう組織で、入会するとどんなメリットがあるのかと不思議に思っている方も少なくありません。メリットが見えないために入会しないでいる歯科医師の方もいます。
本記事では、歯科医師会に入っていない歯科医師に着目し、実際に入会していない歯科医師の割合や入会のメリット・デメリットなどを解説していきます。
目次
歯科医師会に入っていない歯科医師の割合や費用など
まずは歯科医師会に入っていない歯科医師の割合や費用、そもそも歯科医師会とはどういう組織なのかなどを解説していきます。
歯科医師会の概要
歯科医師会の歴史は古く、1903年に設立されており、120年以上の歴史を誇る組織です。元々は歯科医師の立場や身分などをしっかりとしたものにするために立ち上げられたもので、当初は歯科医師の免許を取った時点での強制加入が原則でした。戦争が終わってしばらくしてから任意加入に切り替わっています。
歯科医師会に入会すると正会員と準会員が存在し、医療機関で働く歯科医師は原則として正会員での入会です。
歯科医師会に入っていない歯科医師の割合はおよそ4割程度
現在歯科医師として活動する数はおよそ11万人弱です。そのうち、歯科医師会に入っている歯科医師はだいたい6万人ほどとされており、加入率はだいたい6割程度とされています。歯科医師会に入っていない歯科医師の割合はだいたい4割程度であることがわかります。
この割合は医師が加入できる日本医師会の加入率と大して変わらず、日本医師会の加入率も6割をやや切るような数字です。歯科医師会への加入率が著しく低いなどの特徴があるわけではなく、一般的な数値と言えます。
歯科医師会に加入した際の費用
歯科医師化に加入した際の費用は、正会員の場合は入会金で10,000円がかかり、年会費は第1種で38,000円、第2種で19,000円となっています。医療機関に第1種で入会した会員がいなければ自動的に第1種、既にいる場合には第2種での加入という形です。
この歯科医師会への加入にかかる費用はあくまでも「日本歯科医師会への加入費用」に過ぎず、原則同時加入の都道府県歯科医師会などにも同様に費用が生じます。東京23区の歯科医師会に加入した場合、第1種の入会金が200,000円、年会費が115,600円とかかるほか、東京都歯科医師会への加入にも入会金で150,000円、年会費56,000円とそれぞれかかるのです。
加入するだけで最終的に500,000円以上かかってしまうほか、ランニングコストだけで200,000円ほどかかる計算となります。加入するだけでそれなりのコストになってしまい、敬遠する向きがあるのも確かです。
歯科医師会に入っていない歯科医師の特徴
ここからは歯科医師会への加入を見送っている歯科医師の特徴について解説します。
歯科医師会そのものに不信感を抱いている
歯科医師会では、推薦した人物を国会議員として送り込むなど、歯科医師会の意見が国政に反映されるように政治的な動きを見せる場合があります。献金などもその1つで、過去には歯科医師会の会長などが捕まる事件も起きました。
こうした動きに対して、嫌気が差している歯科医師も一定数存在するほか、政治的信条などもあって距離を置いているケースもあります。このように、歯科医師会そのものに不信感を抱いている場合に歯科医師会への加入を見送ろうとする人がいるのは確かです。
経営環境の厳しさを感じている
歯科医師会への入会は日本歯科医師会だけでなく、都道府県の歯科医師会、さらに市町村レベルの歯科医師会とそれぞれ加入した上で、それぞれで費用負担が生じます。年会費だけでそこそこの費用負担が生じてしまうため、経営が厳しいと感じる歯科医師ほど入会をしたがらない傾向にあります。
特に都市部では、歯科医院が多く、競争が激化する傾向にあり、なかなか収益につながらないと言えるでしょう。そんな中で「歯科医師会に入会して一定額を取られ続けるのは耐えがたい」と感じる人もいるはずです。入会のメリットがない限りは入る意味はないと言わんばかりに、入会しないと判断する歯科医師も珍しくありません。
歯科医師会に入っていない歯科医師はなぜ入会しないのか
歯科医師会への不信感や経営環境の厳しさなどを理由に歯科医師会に入らない歯科医師が多いのは確かであり、都市部では入会しない決断は決して間違っていると断言できるものではありません。
歯科医師会への加入によってさまざまな活動に協力しなければならないのがその要因です。例えば、横浜市旭区歯科医師会を例にとると、地域の人たちを対象にした歯周病関連の講習や実技指導を行っているほか、「歯と口の健康週間」などの啓蒙活動を行っています。
また、訪問歯科診療を始めとした地域医療との連携、地域の学校における学校歯科医としての仕事や災害時の対応、緊急時の対応なども歯科医師会に加入すると行う必要が出てきます。
これらの仕事をするとなると、自分の歯科医院を良くしていくことに時間を割けなくなるため、あえて歯科医師会に入らない決断をする歯科医師が出てくると言えるでしょう。
歯科医師会に入っていない歯科医師が知っておくべき入会のメリット
ここからは歯科医師会に入ることでのメリットについて解説していきます。
歯科医師としての研鑽を積みやすくなる
歯科医師会に入ることで、日歯生涯研修事業に参加できます。日歯生涯研修事業では、歯科医師としてのスキル向上や最新の歯科に関する学びを深めてもらうための取り組みを行っています。生涯研修セミナーなどを行い、歯科医師としての研鑽を積みやすくなります。
生涯研修セミナーでは、歯科に関する研究を行う教授などが講師として登場するほか、講演の内容に対してディスカッションが行えるのが特徴です。動画でもチェックできるなど、学びの機会が多く用意されています。
日歯年金が利用できる
歯科医師会に入ることで、日歯年金を受け取れます。日歯年金は国民年金などと同じく65歳から受け取れる年金であり、仕組みは国民年金基金を活用しています。歯科医院の院長などは自営業者であるため、サラリーマンの厚生年金にあたる部分が本来だと存在しません。日歯年金は厚生年金に該当する年金と言えるでしょう。
日歯年金は男女合わせて8,000人近くが加入しており、平均の掛け金は月額50,000円ほどとなっています。加入員数が減る一方で、年金資産額は増えており、年金のシステムとしては十分に機能していると言えるでしょう。
日歯福祉共済保険制度
日歯年金ともう1つ、福利厚生的なメリットで有名なのが日歯福祉共済保険制度です。日歯福祉共済保険制度は、万が一歯科医院などが全壊や全焼などの被害に遭った際、給付金によって歯科医院の復旧をアシストする制度です。
歯科医師が亡くなるなどして医師免許を返す場合にも保険金が出ます。歯科医師会の会員のほとんどが会員として加入しており、一定のセーフティーネットとして機能しています。
歯科医師会に入っていない歯科医師も気になる入会のデメリット
ここからは歯科医師会に入るデメリットについてご紹介していきます。
入るメリットが若い世代ほど少ない
歯科医師会に入ると、地域の歯科医師会との会合など、時間的な制約が生まれやすいほか、入会金などがかかるためにコストもかかりやすいといったデメリットがあります。その分、リターンがあれば問題はないのですが、若い世代ほど魅力的なメリットと感じにくいのが実情です。
福利厚生面などでもメリットはありますが、年金などはその恩恵を得るのに一定の年数がかかります。しかも、現状の日歯年金ですら加入しているのは会員全体の2割にも達していません。若い世代にとっては歯科医師会に入るメリットはそこまでないと言えます。
自己研鑽に励むといっても、歯科医師会でしか励めないわけではありません。それよりも、大型連休などで休日当番医を務めるような形を強いられる方がデメリットに感じやすい人が多いと言えます。
人間関係の問題
歯科医師会に入ることで地域の歯科医師会の歯科医師とも関係を深めなくてはならず、若い歯科医師ほど人間関係の構築が難しいと言えます。年齢も経験も重ねた歯科医師の相手をしなくてはならないため、人間関係に煩わしさを感じる歯科医師も珍しくありません。
もちろん、面倒見のいい先輩の歯科医師もいるため、入ってみなければわからない部分もあります。しかし、入ってみて後悔することも多く、入会金としてかなりの額を払ったあとにすぐ辞めるのは金銭的には相当な損であり、なかなか踏み込めないところです。
歯科医師会に入っていない歯科医師が確認しておきたい入会の是非
都市部では歯科医師会に入会する割合は低く、地方部では入会の割合が高い傾向にあり、地方に行けば行くほど入らざるを得ない雰囲気が出やすいと言われています。もしも歯科医師会に入会したくない場合には都市部を中心に活動すればさほど問題はないでしょう。地方で歯科医院の開業を行う場合には入っておいた方が無難と言えます。
一方、歯科医師会に入って積極的に活用することでさまざまなメリットを受けられます。せっかく高いお金を出して入会するのであれば、歯科医師会を積極的に利用するという姿勢が求められるでしょう。
まとめ
歯科医師会に入っていない歯科医師はそれなりにいるので、入らなかったとしても悪目立ちしやすいということはありません。ただ、入ることで一定のメリットがあるほか、人脈を形成したい場合や研鑽を重ねたい場合には歯科医師会に入って損はないでしょう。
あとは、年会費や入会費を支払うだけのメリットを見出せるかどうかであり、その点を踏まえて決断することをおすすめします。