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2024.09.07

  • コラム

歯科医院の経営が難しいと言われる理由とは?歯科経営の実態と経営を成功させるポイントについて解説

歯医者 経営 厳しい

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者

勤務医と開業医では開業医の方が年収が高くなるため、多くの歯科医師は歯科医院の開業を目指します。実際に年収をアップできた歯科医師もいれば、経営が上手くいかずに失敗する歯科医師、黒字なのに倒産した歯科医院など、なかなか一筋縄ではいきません。

本記事では、歯科医院の経営に着目し、歯科経営の実態や黒字倒産、成功させるポイントなどをまとめています。

現状における歯科経営の実態をチェック

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最初に、歯科経営の実態についてまとめました。

医療経済実態調査からわかること

厚生労働省では定期的に「医療経済実態調査」を行い、個人や医療法人の収益などを調べています。

令和5年での調査では、医業収益は個人で47,190,000円、そのうち費用を差し引いた損益差額は12,380,000円となっています。この損益差額が手元に残る利益なので、丸々年収と考えることも可能です。ちなみに、中央値は9,163,000円と1,000万円を少し割り込む形となっています。

参照:厚生労働省

損益差額のボリュームゾーン

「医療経済実態調査」は全国にある歯科診療所の50分の1がランダムで抽出されており、個人で経営する歯科医院281か所が抽出されています。このうち、48の歯科医院の損益差額が500~750万円とされ、この金額帯がボリュームゾーンでした。

平均の損益差額が1,238万円でしたが、1,000万円未満の損益差額に終わったケースは144か所と半数以上が平均を下回っており、1,000~1,250万円のゾーンも25か所あり、一部の歯科医院が平均を上げている状況です。しかも、赤字に終わった歯科医院は22か所あり、調査対象の1割程度の歯科医院が赤字になっていると考えられます。

歯科医院の経営でよくある黒字倒産とは

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歯科医院の経営では黒字倒産と呼ばれるケースが出てきます。本項目では黒字倒産とは何か、その原因をまとめました。

黒字倒産の概要

黒字倒産は、収益的には順調ながらも経費の支払いができなくなったために倒産する状態を指します。帳簿上では黒字でありながらも、手元にお金がないために支払いができず、倒産となる状態です。

資金繰りさえしっかりとしていれば続けられたのに、さまざまな要因から資金がショートしてしまい、予期せぬタイミングで倒産に追い込まれるため、経営の際には注意が必要であるとともに、黒字倒産は保険診療ならではの事情によって引き起こされることも多いと言えます。

黒字倒産の要因

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黒字倒産の最大の要因は保険診療が挙げられます。例えば、サービスを提供する際にその場で代金を受け取るのが一般的です。歯科医院の場合、窓口で受け取れるのは本来受け取れる代金の3割分であり、残り7割は協会けんぽや各自治体が運営する国民健康保険などの保険者から受け取ります。

7割分の代金はさまざまな手続きを経て受け取れるようになるため、若干のタイムラグがあるのです。このタイムラグの間に経費が余計にかかる出来事があると、一時的に資金がショートしてしまいます。これが黒字倒産の要因です。

本来は運転資金を別に用意して、黒字倒産にならないよう備えることが求められます。しかし、何らかの要因で運転資金が目減りして、突発的な支出のせいで運転資金が底を尽きてしまうことがあります。

歯科医院の経営が難しいと言われる理由

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本項目では、歯科医院の経営が難しいと言われる理由についてまとめました。

患者を集めるのが大変

都市部では、1つの駅にいくつもの歯科医院が点在している場合があり、集客に苦労するケースが考えられます。コンビニよりも歯科医院の方が多い現状もあるため、歯科医院同士の患者争奪戦が激化している状況です。

口コミや評判、広告などありとあらゆる手段で患者を集めていくことが求められており、患者を集めるために新たな投資を行うことも欠かせません。すると、想定以上に経費がかかってしまい、一時的にキャッシュフローに悪影響を及ぼすことが考えられます。

院長が経営に専念できない

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歯科医院の院長は本来経営に専念し、雇った歯科医師などに治療を任せるのが理想的です。しかし、個人で経営する場合、院長が率先して治療に回り、経営のことを考えられるのは治療が終わってからというケースもあります。

また、歯科医師としてのスキルはあるものの、経営者として経営のことを考えるのは苦手という人もいます。その場合は、家族など別の第三者が経営側に入り、院長として治療に専念できる仕組みなどを構築する必要があるでしょう。

人材不足に陥っている

歯科医院において経費としてかかりやすいのは人件費です。給与の支払いもあれば、採用に要する費用などもかかってきます。人材不足に陥っている場合、その都度、採用にお金をかけなくてはならず、費用がかかりやすくなるでしょう。

また人材不足の状態は、患者からすると不満を抱きやすい環境につながるほか、常に新しいスタッフがいるような形なので安心感につながりにくいと言えます。人材不足に陥っていることは複数の意味で注意すべき状況です。ただ、歯科業界全体で人材不足の状況となっているのが、歯科医院を経営する難しさを示しています。

歯科医院の経営を成功させるポイント

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本項目では、歯科医院の経営を成功させるポイントについてまとめました。

方針が定まっている

歯科医院に限らず、経営で成功しているケースの多くは方針が定まり、その方針に向かってさまざまなリソースを割くことができている状態にあります。方針もリソースも確かなものであれば、戦略的な動きもしやすくなり、結果として売り上げアップにつながるでしょう。

逆にあやふやな方針で、リソースもあまり割けない状態だと経営的には厳しい状況に陥りやすいと言えます。

診療圏調査を重視している

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歯科医院を開業する際には、診療圏調査を行うのが一般的です。診療圏調査は特定のエリアで開業する場合、診療圏にどれほどの歯科医院があって、患者をどれほど集客できそうかを確かめるためのものです。

診療圏調査を行うことで、患者の見込みを予測するだけでなく、ライバルとなりそうな歯科医院を見つけて、そのライバルに勝てる戦略を立てていくことになります。決まったタイミングで調査を行い続け、変化をチェックしつつ、その都度、対策を検討していくことも必要です。

人材不足に陥っていない

歯科医院の成功は歯科衛生士や歯科助手など優秀な人材を確保できることが第一です。特に歯科衛生士は医療行為も行えるため、ある程度の人数を確保しておくことで、治療の質などを一定レベルに保ちやすくなります

また採用にかける費用を抑制でき、経費を少なくできるため、一時的に費用が生じる事態も避けやすくなるでしょう。

潰れる歯科医院の特徴とはなにか

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本項目では、潰れる歯科医院の特徴について解説します。

リサーチ不足で開業した

診療圏調査を始め、実際に歯科医院を開業する際にはさまざまな調査を行い、リサーチを重ねる必要があります。例えば、開業するエリアで最も繁盛している歯科医院の強みを理解しないまま開業することで、同じような特色で勝負することになってしまい、下位互換のような歯科医院となることも考えられます。

また、歯科業界全体のトレンドをさほど気にせずに開業して痛い目を見ることもあるでしょう。少なくとも開業するエリアのニーズ、歯科業界全体のトレンドをしっかりと調べた上で、開業を行うことが求められます。

スタッフのスキル不足

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歯科医師や歯科衛生士、歯科助手の動きは、患者が同じ歯科医院を利用し続けるかどうかに色々な影響を与えます。治療レベルがさほど高くなく、常に治療を受けると痛みを感じやすく、嫌な思いをしている場合、その歯科医院を利用し続けたいとは誰も思いません。

スタッフのスキル不足は予期せぬトラブルにつながりやすく、致命的な問題を引き起こし、経営に暗い影を落とす可能性も考えられます。何よりリピート客を減らすことにもつながるため、スキルを高めて信頼されやすい歯科医院を目指すことが大切です。

全体的な接客レベルの低さ

歯科医院はサービス業ではありませんが、最近ではサービス業的な要素が重視され始めています。コンビニよりも歯科医院の方が多く、利用して気分がいいところを患者が求めているため、えらそうな態度で歯科医師や歯科衛生士などが対応するところは評判を落としやすく、ネット上でさまざまな悪評が立つでしょう。

ネット上での悪評は、ネット上での評判で歯科医院を選ぼうとしている人に警戒されやすく、集客に影響を与えます。接客レベルを高めていき、ホスピタリティを少しでも意識していくことも大事な要素なのです。

歯科医院の経営はとにかく準備が重要

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歯科医院を開業し、経営をしていくには、何より準備が重要です。開業資金の確保を始め、開業場所の選定、診療圏調査などさまざまなリサーチが必要とされ、その中で準備を進めていく必要があります。

準備を重ねていくことにより、さまざまな出来事にも対応しやすくなるでしょう。例えば、一時的に経費が多くかかる、診療報酬の請求でミスがあったなどの事態があっても、それを見越しておけば、黒字倒産のようなことは避けられます。いかに準備を行って経営ができているかが大事なのです。

まとめ

歯科医院の経営は難しく、赤字に苦しみ、損益がマイナスというケースもあります。開業医になれば勤務医より倍以上の年収につながると思って開業を決断した歯科医師も少なくありませんが、すべての開業医が成功しているとは限りません。

一方で、大成功を収める歯科医師も当然います。こうした歯科医師はできることを率先して行い、努力を怠らなかったからこそ、数千万円レベルの年収を確保できています。まずは潤沢な開業資金を確保し、余裕のある計画で開業を目指すことが大切です。

Writer

高橋 翔太

医療法人社団しん治歯科医院 COO 兼 事務長
日本で唯一のストック型歯科医院専門コンサルタント兼歯科医院の経営者